コンバーチブルより高価なクーペはアリか?
ポルシェ・ケイマンはボクスターをベースにしたミドエンジンのクーペで、まず2005年に高性能版のケイマンSがデビュー、続いて翌年に素のケイマンが追加された。しかしケイマンはそのデビュー当初、固定式ルーフのクローズドボディなのに、ベースとなったオープンボディ、つまりコンバーチブルのボクスターよりどうして高価なんだ、と多くのジャーナリストから批判を浴びていたのを思い出す。でもね、歴史を紐解いてみれば、ボクスターとケイマンのプライスの関係は決して異常なわけではなく、むしろ普通のことなのだと、ポルシェに成り代わって僕は当時のリポートで解説した。例えばジャガーEタイプ、MGB、それに日本のホンダS800といった60年代のスポーツカーは、いずれもオープンよりテールゲートを備えるクーペの方が高価だったのだから、と例を挙げて。
その、オープンより高価なクーペであるケイマンが最近、ボクスターと同時にフェイスリフトをうけた。その主な変更点は、エンジンが直噴ヘッドを持つ新開発のものに替わり、2ペダルのトランスミッションがこれまでのティプトロニックSからツインクラッチ式2ペダルMTのPDK=ポルシェ・ドッペル・クップルングに替わったというもので、911が997前期型から後期型に変わったのと同様の変更だ。ただし、911のエンジンがすべて直噴になったのと違って、ケイマンでは標準モデルに搭載される新しい2.9リッター水冷フラット6は気筒外噴射のままで、Sモデルのための3.4リッターユニットだけが直噴化されている。
http://www.carview.co.jp/road_impression/2009/porsche_cayman_s/
ボクスター、ボクスターS、ケイマン、ケイマンSの2シリーズ、合計4モデルあるミドエンジンポルシェのまずはケイマンSについてだけ、スペイン南西部アンダルシア地方のヘレス郊外で国際プレス試乗会が開かれたので、そこに参加した報告をしよう。
直噴エンジン+PDKにより動力性能が大幅にアップ
そこでまずは新エンジンとPDKについて。ボア・ストロークの数値を含むすべてが従来型と変わったケイマンSの3.4リッター水冷フラット6は、排気量3436ccから320psのパワーと370Nmのトルクを発生する。従来型は3386ccで295psと340Nmだったから、かなりの増強になるわけだ。それに対して車重は1350kgと、従来型+10sにとどまっているから、動力性能は明確に向上した。なかでも特に2ペダル仕様はその向上代が大きく、例えば0-100km/h加速タイムは従来型の5段ティプトロニックSが6.1秒だったのに対して新型の7段PDKは5.1秒と、なんとフルに1秒も短縮されている。しかもこのPDKの加速タイムは6段MT仕様より0.1秒速い。ちなみに最高速は、MTで275km/hから277km/hに、2ペダルで267km/hから275km/hにアップしている。
新型の速さは、実際にドライビングしても体感できる。新エンジンは従来型と比べると低回転域からトルクが分厚くなった印象を受けると同時に、レヴリミットが7300rpmから7500rpmに引き上げられたこともあって、トップエンドにおいても一段と軽く回るように感じられる。エンジンの搭載位置がドライバーの背中により近いため、フラット6のサウンドは911より明確に耳に入ってくるが、その音色もなかなか心地好い。つまり新型ケイマンS、エンジンやトランスミッションが関与する動力性能は、文句なしに上がっているということだ。それでいて、燃費も確実に向上しているのはいうまでもない。
ちょっと残念だったのは、今回の試乗車はケイマンS+PDKの組み合わせに限られていたため、気筒外噴射2.9リッターエンジンを搭載する素のケイマンの実力や、ケイマンおよびケイマンSの6段MT仕様のドライビングフィールを体感できなかったことだ。
http://www.carview.co.jp/road_impression/2009/porsche_cayman_s/02.asp
ケイマンというクルマの2面性
ところでケイマンというクルマ、実はなかなか微妙なポジションにある。ミドエンジンというレイアウトは本来レーシングカーのために考案されたものだから、スポーティさという点ではリアエンジンの911を上回っていても不思議はないが、ポルシェは必ずしもケイマンのそういうキャラクターだけを強調してこなかった。それよりもむしろ、エンジンルーム後方のラゲッジスペースに楽にアクセスできるようにテールゲートを設けるなどして、高性能スポーツコミューターとしての適性を高めるためのデザインが目につく。同じミドエンジンの2シータースポーツでも、ロータスがつくるとドライビングを愉しむためだけのエリーゼやエキシージになり、ポルシェがつくると普段も使えるケイマンになる。これだからクルマは、さらにいえばスポーツカーは面白い。
そこで新型ケイマンSだが、こいつはケイマンの持つ2つのキャラクターを両方とも明確に進化させたクルマに仕上がっていたといえる。つまり、高性能でありながら日常的に役に立つスポーツコミューターとしての側面と、ドライビングを愉しむためのピュアなスポーツカーとしての側面の両方が、いずれも明らかに前進していたのだ。
しかもポルシェは今回、ケイマンSの持つ後者のキャラクターを強調したかったのだろう、これまでのケイマン系には見られなかった明るくて鮮やかなブルーやグリーンやオレンジといったスポーティなボディカラーのクルマを、試乗車に数多く用意していた。しかもそのうちの何台かは、ボディサイドに“Cayman S”ストライプまで入れて。
http://www.carview.co.jp/road_impression/2009/porsche_cayman_s/04.asp
快適さと俊敏さが両方とも向上していた
シャシーが関与する分野に話を移すと、走り出した途端に身体がまず感じ取ったのは、乗り心地のよさだった。特に最初に乗ったイエローのクルマなんか、驚いたことにロールスロイスに乗ったかのように路面の当たりが柔らかい。試乗車はすべて電子制御アダプティブダンパーによるPASMを装着していたが、電子制御のプログラム変更や、後輪タイヤの指定空気圧を下げたことなどが効いているのだろう、乗り心地が従来型より明らかにスムーズで快適になっている。役に立つスポーツコミューターとしての側面が明確に前進した、というのはこのことを指しているのだ。端的にいって新型ケイマンSの乗り心地は、911カレラSよりいいのではないだろうか。もちろんケイマンには、ホイールベースが911より長いという、乗り心地に有利なファクターがちゃんと備わっているのだけれど。
ならば新型ケイマンSは、従来型に比べて快適方向に振られたクルマなのかというと、必ずしもそうではない。すでに書いたように、ドライビングを愉しむためのピュアなスポーツカーとしての側面も、確実に前進している。すなわち、コーナーにおける身のこなしがこれまで以上に軽快になっているのだ。ステアリングのパワーアシストを変更して操舵力を従来型より軽くしたこと、LSD=リミテッド・スリップ・ディファレンシャルをオプション設定し、試乗車がそれを装着していたことなどが効果を発揮しているのだろう。その結果、コーナーへのターンインが従来型より俊敏になると同時に、そこからの脱出に際してはトラクションがより確実に掛かるようになったといえる。試乗ルートにあった、タイトなコーナーが延々と続くワインディングを猛烈なペースで飛ばしたときの新型ケイマンSは、まるでライトウェイトスポーツのように軽快に身をひるがえしたのだった。
ただしケイマンS、911と違って限界に至るとパワーオンでもわりと簡単にテールがスライドする傾向にある。だからコーナーで張り切りがちな飛ばし屋諸兄には、標準の18インチよりもオプションの19インチタイヤの選択を推奨しておきたい。もちろん、スタイリッシュなスポーツコミューターとして乗るのであれば18インチで充分だが。
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